Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
何か頭の上がらない仲でもあるのか、何でも怒られッ放しで唯にやにやなのである。けれどもその二人の仲のよいのは無類であった。女中が台所から出てゆくと、まもなくお寿司が来たり、風月のぜんざいが出たりした。そして晩の灯りがつくと、近藤夫人はやおら又、ぼくに不似合いな物をより分けて一と荷物とし、それを人力車へ運んで、「じゃあいいかい、英ちゃん、辛抱しなくッちゃ駄目よ」と、俥の蹴込みから何度も云い、ぼくの影を露地の角へ残して帰ってしまった。
あくる日からぼくは店に出て、店番兼仕事机の位置を店の隅ッこに与えられた。
その朝初めて、奥の主人夫婦の食卓の前で、旦那様へ目見得をした。おかみさんとは、どう見ても似つかわしくない人だった。少し頭の地が見える頭髪をきれいに分け、商人でもなし職人肌でもない、瀟洒な市井の君子人肌といったような旦那であった。声までが低めで温厚な女性音をふくんでいる。それに反しておかみさんが喋々と昨日の仔細を告げるのを、主人はほとんど横耳に「……そう。あ。そう。居てごらん」と、箸を片手に、汁椀の上から上わ目で、ちょっと、ぼくの方を見て云ったきりであった。