Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

赤煉瓦

「こんな子は末恐ろしいよ、君」と、その人も呉竹氏へ云ったそうである。思えばその頃、わが家の没落初頭に、父は高瀬理三郎氏の禿頭に加えた一拳が禍いとなって、自身の生涯をどん底に落し入れたのみか、妻子まで離散と悲泣の運命へ追いやる序幕をここにつくり、ぼくはぼくで又、おかみさんのあまりに細長い顔につい興味を感じてそれをスケッチした為に、思わぬ筆禍に会ってしまい、それから次々に食う為の職をさがし歩く路傍の小犬になってしまったのであった。

赤煉瓦

他人の飯というものを、ちょッぴり食べて帰ったに過ぎないぼくは、父の不在をいい事にして、毎日、古本屋覗きをして歩いたり、また好きな本と首っ引きで徹夜し、狭い家に隠されている母の苦労も知らずぶらぶらしていた。

それでも母は何ひとつ叱言も言わず「おまえもほんとに変って来たわ。やはり世間に出て、よその御飯を食べたのが、いい薬だったのね」と云ったりした。

以前とちがって、猫の額みたいな借家だし、もう女中の手もなく、母一人で一切合財、立ち働きしているので、ぼくも自然、台所の水汲みもやれば掃除もする、お使いにも渋らずに飛んで行くという風だったから、母にはわが子が良く変ったと見えたのであろう。