Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

浜子は人形のように色の白い端麗な子であった。貧窮の中で物心のついたせいか賢い子で母思いだった。遊びたい盛りなのに小さい心を母と一つに貧苦して来た。だから母の側を離れるさえ嫌だったろうに、遠くへと云われても、「……うん」と云ったのだろうと思う。

行った先の主人の話では、着いた日から御飯もろくに食べず、泣いてばかりいたらしい。そのうちに床についてしまった。医者に診せたが、たいした事もないと云う、けれど次第に痩せ細るばかりなので――と、親元へ帰してよこしたのであった。

家の中へ寝かせたとき、もう意識はなく昏々としていたのである。医者は脳膜炎と診立てた。氷嚢をあて、半月程もその儘であり、母は枕元で詫びてばかりいる。母も狂気しはしないかとぼくは惧れた。ぼくもドックから帰ると浜子の枕元に坐りきった。まるで天女みたいな愛くるしい顔しているのだ。自分の肉親をこういうのも変だが、浜子の顔ほど汚れない美しさを、ぼくは生きている人の中では見たことがない。意識がなくても今は母のそばへ帰っていることを安んじているのだろうか、清々と昏睡しつづけている。真夜半頃になると、ぼくもそうだったが母も自然なようにその顔へ手をあわせてただ拝んだ。