Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
ドックで死んだと思って、ぼくに暇を下さい、東京へ出て、苦学します。そして、職業に就いたら、一家を迎えて、東京で生活するような方針を立てますからと、必死な決意が、自然、大人びた口吻ともなって云った。
案外、父はかんたんに、「うむ、やってみるさ」と云った。決して、いい顔つきでもなく、呻きみたいな返辞だったが、「苦学か。まあ、苦学もいちどは、やってみるといい」打っちゃるように、ゆるしてくれた。
苦学とか立志とかいう文字が、青年の脳裡に強い意欲と夢をもたしめていた時代である。父は、ぼくも流行青年病の一人と見ていたものだろう。その点、娘時代を近藤真琴の塾で育てられた母とは、違いがあった。芝新銭座の近藤塾に勉学していた沢山な若い人々の夢を、母は娘時代に知っていた。だから、子のぼくが、十九ともなり、十九の年も、終りかけている今を、父以上、本気になって案じていてくれたかと思われる。
こればかりは忘れはしない、年暮の三十日であった。ぼくは生れて始めて、家という巣箱を出た。父と母へ、改まって、暇乞いをした。母はその朝、ぼくの門出の為に、赤の御飯を炊いてくれた。小さい弟妹たちも交ぜて、干魚の尾頭付きで、みんなで朝飯を食べ、それから母に送られて、桜木町の駅から汽車に乗った。