Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

同夜、風雨の中を、東京より慶応病院の笹本博士、来診をたまわる。笹本博士の診察を受くるは初めてにあらず。しかし今回は博士の眉辺、大事の色あり。多くは余に語らず、妻を階下に呼んで、毎日の松本昭氏、講談社の賀来寿一氏らを加えてひそやかに時を移し、同夜、深更の汽車にて博士は帰京、ただちに入院の手続きだけは運びおかんとのよし、いい残さる、二十九日、汽車にて帰京。

十月一日、午前中、赤坂の自宅にて臥床のままレントゲンを撮る。午後、その結果をみて笹本博士、松本氏と同道、書斎の病床に通る。肺腫瘍との診断にて、入院は一日一刻も早いがよしとのことなれど、せつに、中一日の猶予を乞うて、未脱稿の「新・水滸伝」の執筆に着手。二日もなす。午前中は「水滸伝」を書いて、午後一時ごろ、ただちに入院する。三日以後、連日、手術に備うるための肺、心臓、その他種々のテストを受ける。「日々地獄めぐりのようだ」と笑う。手術は六日と決まる。執刀は石川七郎博士にて、石川氏より病症説明を直接聞く。五日夕、長男英明、大阪より呼び返されて枕頭に顔を見せる。同日深夜は妻とただふたりきりの病室にて、生涯の思いと昨今の感慨とを語り合うて更ける。