Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

いちばん最初に先生から示された教科書は、“中学漢林”で、外史や十八史略の抜抄であった。それで多少興味づけられてから論語や小学の素読へ移った。和書のページの難解な辞句の所には、朱唐紙を小さくちぎり、ちょっと舐めて、疑問の印に、辞句の部分へ貼りつけておいたりする。あの和書の中へ点々と貼った紅梅みたいな朱唐紙の色だけには、子供心にも優雅なものを感じたりした。

だが、いくら家の近所にしろ夜学が終って帰ると、もう八時か九時近かった。その頃、父も会社から帰っている。そして時にはまた、父の前で、英語と漢学の復習をさせられた。わずかな時間だったろうが、これが何より辛くて、いちばん長い時間に思われた。冬の夜などは、室内の暖かさに、どう気をひきしめても、つい居眠りが出てしまう。

そんな時、父から一喝を喰うのは、のべつだったが、ある夜の如きは、いきなり父が立上がって、縁側の障子を明けたと思うと、ぼくは外の庭へ突き飛ばされていたことがある。忘れもしない、その晩は雪が降っていた。母の姿が廊下に見えると「ばかっ、誰がゆるした。上げてはいけない。雨戸を閉めてしまえ」と、障子の内でなお父の云うのが聞えた。