Japanische Klassiker mit Furigana
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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Lesen Sie 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) von 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 240.656 Zeichen · 478 Bildschirme
「――大事出来、この状御覧次第、至急御越し下され度、御待ちあげまいらせ候。―― 菊路」
いぶかりながら、しげしげと見眺めていましたが、ふと不審の湧いたのはその筆蹟でした。妹菊路は彼自身も言葉を添えてたしかにお家流を習わした筈なのに、手紙の文字は似てもつかぬ金釘流の稚筆だったからです。のみならず展べ紙の左端に、何やら、べっとりと油じみた汚みのあとがありましたので、試みにその匂いを嗅いでみると、これが浅ましい事にはあまり上等でない梅花香の汚みでした。菊路が好んで用いる髪の油は、もっと高貴な香を放つ白夢香の筈でしたから、退屈男の両眼がらんらんとして異様な輝きを帯びたかと見るまに、鋭い言葉が断ずるごとくに吐かれました。
「馬鹿者達めがッ。にせの手紙を使ったな」
途端――。
「御門番どの、只今帰りましてござります。おあけ下されませい」
言う声と共に、番士があたふたと駈け出していった容子でしたが、御門を開けられると同時に、不審な一挺の空駕籠が邸内に運び入れられたので、当然退屈男の鋭い眼が探るごとくに注がれました。
と――、これがいかにも奇態なのです。金鋲打った飾り駕籠に不審はなかったが、いぶかしいのは赤い提灯そのものです。