Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
Lesen Sie 光は影を (ひかりはかげを) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 138.262 Zeichen · 276 Bildschirme
母は無事なのであろうか? 妹や弟たちは、みな元気でいるのかいないのか? それからまた、家の暮し向きはどうなのか? その日の生活に困つているようなことはないか? 鹿児島から、ほかのものがおおかたそうしたにもかゝわらず、彼は、わざと留守宅へ電報を打つのをやめた。別に深い理由はない。たゞそんなことをするのがいやであつた。少しでも大袈裟な身振りで家の閾をまたぐ気になれなかつたのである。それこそ、なんでもなく、ちよつとした旅行から戻つたように、「ただいまア」とひと言、それきりですませたかつたのである。
ほんとうのところ、彼は、印度支那の岸を船がはなれ、ポーレットの姿が南の空のなかに消えたとき、なんとも言えぬ複雑な感情がこみあげて来て、泣くにも泣けず、笑うにも笑えぬような、妙な一瞬を過したことを思い出す。ほッとしたといえばそうもいえるが、内地へ帰り、家族のものに取り巻かれることを想像すると、それをたゞ、うれしいとはどうしても言いきれない、あるこだわりが底の底にある。なぜだろうか? 彼にも、はつきりとは答えられまいが、おそらく、この年になつて、彼はもう三十一だが、七年間も家をあけ、戦場から戦場を駈けめぐつて、それこそ、孤独と殺風景になれた生活から、急に、両親と弟妹から成る家の秩序と情実のなかへ飛び込む億劫さは、よくよく