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Japanische Klassiker mit Furigana

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ひかりはかげを

光は影を

岸田 国士

Lesen Sie 光は影を (ひかりはかげを) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 138.262 Zeichen · 276 Bildschirme

Aozora Bunko

この日あるがために

一

まず着のみ着のまゝといつてよく、わずかに差押えをまぬがれた勝手道具の類と、人数だけの夜具が運び出されたに過ぎない。

母は、玄関の前で、しばらく、涙を拭いていた。

父は、終始無言のまゝ、母の差出す袷羽織に手を通し、最後に、庭の松の木を見あげて、悄然と門を出た。

京野等志は、ひとり後に残つた。債権者に家屋家財を引渡すためにである。彼にとつて、それは、単なる事務にすぎなかつた。なんの感慨も催さないというのが、いつわらぬ事実である。それどころか、むしろ、さばさばとした痛快味さえ覚えるほどの瞬間もなくはなかつた。

さればこそ、彼は、露ほどの屈托もなく、翌朝、上野を発つて、小諸に向つた。

冬の山は、白雪の間に、荒々しい岩の肌をのぞかせて、眼の前にそゝり立つていた。

この日あるがために

一

京野等志からの返事がもう来そうなものだと、小萩は、こゝ二、三日、なにも手につかなかつた。軽症患者の日課はわりにゆるやかで、雪の山道が大儀でさえなければ、いつでも診察時間以外は好きな時に散歩ができる。彼女は、今日も、朝の化粧をしながら、鏡にうつる自分のすがたが、すこしは見られるようになつたかしらと、わざとあどけなく小首をかしげ、さて、裏山をひとまわりするための、誰にみせるでもない衣装の選択を、あれこれと意のなかでしでみるのであつた。