Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
Lesen Sie 光は影を (ひかりはかげを) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 138.262 Zeichen · 276 Bildschirme
三
「勘定払いな」
「それだけじや足りないか」
ちらとテーブルの上を見て、
「いくらおいたんだ」
と、女にたずねた。女は、紙幣をつかむと、ろくに数えてもみずに、
「ダメなんだよ。これで夜つぴて飲ませろだから、いゝ気なもんさ。その外套でもおいてかせるんだね」
「外套ぬぎな」
と、男は、けだるそうに言つた。
京野等志は、思わず拳を握りしめた。その種の威嚇を反射的にはね返そうというよりも、みすみす暴力に屈しようとする自分のすがたに憤りを感じたからである。が、彼は、踏み止まつた。それを正当づけるなんの根拠もなかつたけれど、たゞ、いずれにしても、ぶざまなことはおなじだと、肚をきめて、ゆつくり外套を脱ぎすてた。
三
京野等志は、もう人ッ気のない青梅街道を冷たい夜風に吹かれながら、すたすたと歩いた。
足が宙に浮き、皮膚がじかに物にふれず、どつちを向いても言葉の通じぬような不安にふと襲われた。もちろん、酒のせいも手伝つてはいようが、彼は、自分の精神と感覚がこれほど鋭く研ぎすまされた状態を、これまで一度も経験したことはないように思つた。
彼は、たゞ、無意識にわが家の方向に向つて道を急いでいるのである。