Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

だから義兄の結婚も万事家庭で行われたのだろうが、偶然ぼくはその為に、当夜、花嫁花婿の初夜の有様を何とはなく見てしまったのである。

いつもは二階に寝るのだが、その晩の部屋の都合から、ぼくは階下の中庭をへだてた向う側の一室に寝かされていた。夏なので十畳蚊帳いッぱいに、寝具は三ツ敷いてあった。その端の一つにぼくは寝ていた。

どうして眼が醒めたのか、ぼくはふと、うつつを覚えていた。もう夜更けていたに違いないが、まだお客の笑い声やら片づけ物の忙しげな音が遠くでしていた。そして見るともなく蚊帳の中を見まわすと、真ん中の寝床は宵のままだったが、それを措いて、も一つさきの端の夜具に、誰か寝ていた。

ほの暗かったが、花嫁の白い顔の一端がすぐ分った。その白さがまるまるこッちへ見えないのは、義兄の顔に隠れているのだということもすぐ覚れた。二つの枕がそのように並んでいる光景がたしかに強いショックではあったと思われるが、それは今になって多分そうだったろうと推測されるまでであって、その時の直感は大人のもつ意味の衝動といったようなものではない。

いま考えてみるのに、まじまじとそれに視覚を灼きつけられながらもその連想がすぐ生理的にぼくの体にあらわれたり、悩んだりしたような覚えはどうもなかったとしか思われない。