Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

と、姉は泣かないばかりに頼む。そして姉がすこし理くつをならべたので「さむらいの子が、豆腐なんか買いに行けるかい。そんなに執こく云うなら腹を切っちまうぞ」と、小脇差か何かひねくって、ほんとにやりそうな真似をしたので、姉は青くなって謝った。

夕食後、銀左衛門の部屋から「丈之助、ちょっと来い」とよばれたので、彼が入ってゆくと、三宝の上に、少し刃を見せた白鞘の短刀が載せてある。その向うに銀左衛門が四角な膝をして坐っていた。どきっとしたそうである。「丈之助、おまえ、腹を切るといって、姉を脅かしたそうだな。さむらいの子は嘘をいうものじゃないと常々云ってある。わしが見ているからそこで腹を切れ。おまえ、さむらいの子が豆腐など買いに行けるか、といって威張ったそうじゃないか。なぜ、青くなるか。切れ」と云って、銀左衛門がねめつけた。いくら謝っても、ベソを掻いても、断じて「切れ」と云うのみでゆるさない。

家じゅうの騒ぎになった。姉はもちろん風邪ひきの母も下男もみな一室に寄って来て、丈之助の代りに泣いて詫びるやら宥めるやらを尽したが、銀左衛門はゆるすとはいわない、そのうちに、深夜になった。