Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

とは、とても、口に出ないのであった。それが何とか出来るまでには、半月もかかっていたろう。突ッけんどんに「要らないよ」と断わられるたび、顔を赤くしたまま四、五軒は飛ばして、眼もくらくら歩いてしまった。また時稀、「どんな物を持ってるの」とそこの主婦に訊かれても、唯どぎまぎばかりして、さっそく荷を並べて勧める如才も出ないでいるまに、「じゃあ、今度にするわ」と断わられてしまうなど、とても一ヵ月や二ヵ月では、逞しいあの行商人だましいには成りきれなかった。

行商をやってみて、何よりもいけないと自分でも分った点は、どうしてもケチなはにかみが除れない事であった。少年には少年だけの知るつよい見得がある。その幼稚な虚栄と感傷は、周囲の世間が清潔で秩序立っている中ではなおさら処女のようだった。つねに自分のみすぼらしさを世間の表面と見くらべている。いやぼくが特別、小心だったのかもしれない。

だから行商して歩くにも、市街に接した住宅地はよけて歩いた。以前の学校友達だの、父母の知人に出会うのが恐かったからである。いま思うとその頃は横浜も場末だった平沼、保土ヶ谷、神奈川附近などの遠くへまでわざわざ行った。