Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
だから船具部ではこれを穿いていない者はない。足だけ見ても、あいつは船具部だなと、ひと目で分った。近頃はどうか知らないが、木靴にペンキの乾漆服という妙な恰好の工員はドックにだけしか見られる風俗ではないかとおもう。
帽子もペンキが積もって蟇の肌みたいになったのを皆かぶっている。船腹塗装を終日する日などは、足場の上はいつも風が強いので、ペンキ刷毛の先からテレビンの飛沫が吹きかかって、睫毛もくッついてしまったりする。夕方は顔見合せて、相互の姿をお笑い物にして笑うのだった。
「この顔、女房子に見せたくねえナ」と、誰かが云えば、「彼女に見せたら何というだろう。おれは税関の倉庫係りという触れ込みになってるんだが」と、ボロに浸したテレビン油で顔をこすっている男もあった。
いずれ遊廓の女か何かであろう。よく通っている先の女のおのろけを始終自分から云い出しては、からかわれると、それで満悦している森公という小男の工員がいた。勘定日(月二回の日当支払日)というと、それから数日間は極まって休む。取っただけを女の許で費い果すと、また出て来て次の勘定日までは欠勤なしに働きつづける。