Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

つまりこんな問題は、各人各種にどう考えようと自由だし、また考え得られるし、といって誰にも極め手はないということだろうと思われる。

ぼくは自分をそれ程とは思っていないが、本質のぼくはよほど女好きなのだろうか。ぼくのこの世における最初の記憶といえば、女の映像なのだ。きれいな女の人である。

幾歳の時だったなどというわけにはゆかない。何しろぼくはまだ、ねえやか婆やかの背中に負ぶさっていた。母の乳を離れていなかった頃でもある。

その頃うけた記憶として、こういう事象が、後々まで、脳の深部にありありこびりついている。

ぼくは誰かに負ンぶされていた。そばに石だんがある。その石垣の上に、緑色の窓があって、その塗料の色だけがほかのどの映像よりもくっきり濃い。

そこへ向うから女のひとが歩いて来た。きれいな女のひとだった。負ンぶされているぼくの頬へ頬ずりした。そして、

「子供の乳の匂いって、いいもんだわねえ」

と、誰かに云った。

――ぼくの最初の記憶というのはこれだけのものだ。奇妙に思えてならないのは、まだ自分が乳のみ児だったのにという疑いである。錯覚であろうかと、母の存命中、母にただしてみたこともある。