Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

Lesen Sie 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) von 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 240.656 Zeichen · 478 Bildschirme

Aozora Bunko

いや、旅情です。まさしくそれは旅情です。人影もない知らない土地をぶらぶらするのもよい味のする旅情だが、ざわめく雑沓の人の中を、自分ひとりのけ者となりながら、当もなくぶらぶらと歩いて行くのも、悲しくわびしく何とはなしに甘やかしい涙がほろりと湧いて、実にいい味のする旅情です。――退屈男が何をおいても、先ず第一にこの吉原へやって来たのも、その寂しい旅情にしみじみと浸りたいために違いないのでした。

京町、江戸町、揚屋町と、曲輪五丁町の隅から隅をぐるりと廻って、そうして久方ぶりに長割下水へ帰りついたのは、木枯に星のまばたく五ツ半……。

「ま! お早うござりました。御帰り遊ばしませ」

京弥と、兄主水之介の側にさえ居ったら、ほかにもう望みはないと言わぬばかりに、いそいそと迎えて手をついたのは妹菊路です。

「どうでござりました。吉原とやらは面白うござりましたか」

「それほどでもない。菊!」

「あい。何でござります」

「兄はまたどこぞ旅に出とうなった。江戸は思うたよりも寂しい。いや、思うたよりも退屈なところよな」

「ま! お声までが悲しそうに! ――どうしたらよいのでござりましょう。