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Japanische Klassiker mit Furigana

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にちりん

日輪・春は馬車に乗って 他八篇

横光 利一

Lesen Sie 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.787 Zeichen · 177 Bildschirme

Aozora Bunko

或る日の夕暮、彼は露台へ昇って暮れて行く下の海を見降しながら考えた。

――今は、ただ俺は、妻の死を待っているだけなのだ。その暇な時間の中へ、俺はいったい、何を詰め込もうとしているのだろう。

彼には何も分らなかった。ただ彼は彼を乗せている動かぬ露台が絶えず時間の上で疾走しつつあるのを感じたにすぎなかった。

彼は水平線へ半円を沈めて行く太陽の速力を見詰めていた。

――あれが、妻の生命を擦り減らしている速力だ、と彼は思った。

見る間に、太陽はぶるぶる慄えながら水平線に食われていった。海面は血を流した俎のように、真赤な声を潜めて静まっていた。その上で、舟は落された鳥のように、動かなかった。

彼は不意に空気の中から、黒い音のような凶徴を感じ出した。彼は急いでバルコオンを降りていった。向うの廊下から妻の母が急いで来た。二人は顔も動かさずに黙って両方へ擦れ違った。

「あのう、ちょっと、」と母は呼びとめた。

彼は振り向いて黙っていた。

「今夜は、キーボ、危いわね。」

「危い。」と彼はいった。

二人はそのまま筒のような廊下の真中に立ち停っていた。暫くして彼は病室の方へ歩き出した。