Japanische Klassiker mit Furigana
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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lesen Sie 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.787 Zeichen · 177 Bildschirme
すると、付添いの看護婦がまた近寄って来て彼を呼びとめた。
「あのう、今夜はどうかと思いますの。」
「うむ。」と彼は頷いた。
彼は病室のドアーを開けると妻の傍へ腰を降ろした。大きく開かれた妻の眼は、深い水のように彼を見詰めたまま黙っていた。
「もう直ぐ、だんだんお前も良くなるよ。」と彼はいった。
妻は、今はもう顔色に何の返事も浮べなかった。
「お前は疲れているらしいね。ちょっと、一眠りしたらどうだ。」
「あたし、さっき、あなたを呼んだの。」と妻はいった。
「ああ、あれはお前だったのか。俺はバルコオンで、へんに胸がおかしくなった。」
「あなた、あたしの身体をちょっと上へ持ち上げて、何んだか、谷の底ヘ、落ちていくような気がするの。」
彼は両手の上へ妻を乗せた。
「お前を抱いてやるのも久しぶりだ。そら、いいか。」
彼は枕を上へ上げてから妻を静かに枕の方へ持ち上げた。
「何んと、お前は軽い奴だろう。まるで、こりゃ花束だ。」
すると、妻は嬉しさに揺れるような微笑を浮べて彼にいった。
「あたし、あなたに、抱いてもらったのね、もうこれで、あたし、安心だわ。」
「俺もこれで安心した。さア、もう眠るといい。