Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
Lesen Sie 光は影を (ひかりはかげを) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 138.262 Zeichen · 276 Bildschirme
「意味深ですのね」
「いや、信州の白百合はね、谷間じやなくつて、火山の噴火口に咲いてるんだ。あぶない、あぶない」
こんな風な戯談にまぎらして、彼は、洋服を着かえはじめた。その間、百瀬しのぶは、多津に連れられて、階下におりた。おりると、もう、下では、母をふくめた女たちの笑い声が聞える。活き活きとしたものを、どこへでも運んでいく娘とみえる。
彼は、その時、なにものかにそゝのかされるように、万年筆をぬいて、さつきの書物の一冊の扉へ、「味岡小萩嬢へ、心をこめて、著者」と書いた。そして、更に下巻の扉へ、同じ意味をフランス語で、“A Melle Kohagi, de tout mon coeur, Auteur.”と、すこし気がとがめながら、書いて、ぱたりと頁を閉じた。
それ以来、京野等志の身辺は、なにやら急に色めきたつたようにみえた。彼は信州に嫁いだ小萩のことを、決して忘れるどころではなかつたが、そうかといつて、現在の二人の間の距離を、そう手軽に縮められるものとは思つていなかつた。こつちが一歩近づいていけば、むこうは二歩後すざりをする気配がはつきりと察せられる以上、すべての努力は当分無駄だという見極めをつけて、たゞ、来るか来ぬかもわからぬ機会を待つていたのである。