Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
Lesen Sie 光は影を (ひかりはかげを) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 138.262 Zeichen · 276 Bildschirme
美佐も、女の力ではどうにもならない、甘い呼び声に耳を傾けるようになりました。その声の方に、美佐は、知らず知らず、引かれていきます。今夜は、いよいよ、ひと思いに、惜しくもないからだを投げ出す決心をしました。これだけのことは、兄さま以外のだれにも言いたくありません。美佐は、ひとりぽつちだ、と思つたとたん、あのひとの顔が眼に浮ぶには浮びましたけれど、美佐は、それに向つて、なにも言うことがないのに、びつくりしました。そして、そのつぎに、家のひとの顔を思い出そうとしました。それがどうでしよう。誰の顔も、はつきりと眼にうかばないのです。せめてお母さんの顔をと思つて、じつと眼をつぶつてみたのですけれど、もやもやとした記憶の影が、まつたく表情のないリンカクだけを描き出しているのです。たゞ、お兄さまだけが、はつきりと、そこに、口を動かしておいでになるではありませんか。美佐は、思わず、お兄さんと、声を出して呼びました。涙がとまらないのです。
明日、おひるから、箱根へまいります。もう夜が明けかゝつています。この手紙が、美佐の冷たくなつたふところから取り出されるのは、明後日の朝になるでしよう。