Japanische Klassiker mit Furigana
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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
Lesen Sie 夜明けの辻 (よあけのつじ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 42.801 Zeichen · 86 Bildschirme
そう直感した伊兵衛は、なおしばらくようすを窺った後、静かに邸内へと滑り下りた。
物音の聞えたのは、たしかにその辺である。しかしいまはなにもかも雪の下になってしまった。伊兵衛はようやく黄昏の色の濃くなった庭上を、植込の蔭に沿って走ると、あとは一気に茶室の土庇の下へ駈け込んで行った……そして、そこでひと息ついたとき、幽咽たる琵琶の音を耳にした。
――長谷川東寿、盲無念だ。
伊兵衛はそう気付いた。
孫次郎の話に、東寿は琵琶をよくしたと聞いたし、この屋敷に琵琶を弾く者はない。たしかに彼だと思いながら、伊兵衛はいつかその音調に強く惹きつけられている自分を感じた……大絃はそうそうとして急雨のごとく小絃は切々として私語のごとし、という白氏の詩片がふと頭にうかんだ。……そうそうと切々と錯雑して弾ずれば、大珠小珠玉盤に落つ……そのとき琵琶の音はそれほど華麗ではなかった。白氏の措辞を連想させたのはその無用の技であって、発する真韻はもっと深刻な、もっと直接なものであった。かつて音楽などに嗜みをもたなかった伊兵衛は、その韻律がどれほどのものか分らなかったが、じかに胸へ訴えてくる啾々の音には、ほとんど心を戦慄させられるものがあった。