Japanische Klassiker mit Furigana
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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
Lesen Sie 夜明けの辻 (よあけのつじ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 42.801 Zeichen · 86 Bildschirme
「おお、旦那さま」
「道が分らなくて少し遅くなった」
「ようまあ、御無事で」
「母上はお眼覚めか」
「はい、いましがた雨戸を繰る音がしたと存じます。御案内いたしましょう」
五郎次は母屋の前を横切って、袖垣のようになっている槇の生垣の向うへ導いた――家族の住居とは離れて、隠居所でもあろう、松をとり廻した閑素な一棟がある、その横手で、筧の水を汲んでいたのは佐和だった。
「お嬢さま、旦那さまがお着きでござります」
「え、兄上さまが……」
振返った眼と、近寄って来た伊兵衛の眼とが熱く喰合った。
「兄上さま」「……佐和」
二人の眼は、互いに相手の心のなかまで見透した。そして、短い日数のうちに、すっかり変った兄を、妹を、同じ血の温かい感応で、しみ入るように感じ合った。
「母上にお変りはないか」
「はい……ただ兄上さまのことをお案じなされて、ずっと塩断ちをあそばしていました」
「おまえに色々と迷惑をかけたな」
佐和はそっと袂を眼へ押当てた……五郎次が知らせたのであろう。家の中で仏壇の鐘が鳴るのが聞えて来た。おそらく母が、伊兵衛の無事だったことを、亡き父の霊に告げているのに違いない。