Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

支店勤めで、辛かった仕事は、サイダーやビールの納入に行くときである。軍艦によって水兵や下士の気質も違い、手を貸してくれる場合もあるが、そうでない時は、あの舷側の下から高いタラップを番頭やぼくが担ぎ上げて行かなければならない。ぼくは軍艦印サイダーの四打入りをよく肩に乗せられた。そして片手でタラップのロップにつかまりながら一歩一歩艦上まで登って行くのだった。――忘れもしない軍艦新高のタラップの途中から、それを担いだ儘、ふとよろけて、海へまっ逆さまに落ちたことがある。前後は皆目覚えていない。気がついたときは、自分の周りにはゲラゲラ笑う大勢の声がしていた。救助されて酒保に担ぎ込まれていたのである。

新高へ行くと、いつも、からかわれた。可愛がってくれたのであろう。ぼくはどの軍艦や駆逐艦へ行くよりも、新高の酒保へ行くのが愉しかった。酒保には甘い物も豊富なので、よくいろんな物を貰った。

ある時一人で何かの使いに行ったことがある。新高は間もなく出航の準備をしていた。用がすんでからぼくは人気のない中甲板など歩いているうち、この儘、船底か石炭庫へでも隠れてしまったら外国へ行けるが、というような空想を抱いていた。