Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
ここの工場主もクリスチャンであった。つまり紹介先はみな日本基督教会のメンバーだったものだろう。工場での仕事は、至極単純なものだった。一台のラセン削り器械を受け持って、終日、真鍮屑を足もとに溜め、手とペダルを動かしていればいいような仕事にすぎない。けれどこれが、毎日の夕方になってみると、全身労働にも劣らない疲労になる。晩の宿舎では、誰も彼もくたくたになっていて、およそ書物を手にする者などは一人もいない。自堕落と不潔と無希望な沼に見えた。
母からはよく便りをくれた。ぼくも出京以来、毎日のように手紙を書いた。安心するようにばかり書いたので、母は、ぼくがもう志望どおり苦学の方途をえて、勉強の緒についていると思ったのか、小包便が届くと、母の夜業に縫われたらしいシャツやら学生股引にくるまれて、必ず何冊かの本が出て来た。欲しいと思っていた竹越三叉の二千五百年史などわけてうれしかった。それと、或る時、“あやめ”の二十匁が一しょに出て来たときだった。家にいるうちから、父には内緒で、煙草の盗み喫みをやっていたぼくの煙草好きを母は知っていたのである。その折の小包は、女物のつづれた腰紐でくくってあった。