Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
なぜなら、自分の幼時の体験や現象には、とかく眼をふさいで子を視る風があるからである。どうもこの方が共通な親たちの現象であるといえるかもしれない。
父はやたらに世話ずきな人だった。もっとも、自己の順調なときには誰にせよ寛容のあるものだが、ぼくの父もよく人のすったもんだを背負い込んでは奔走して廻ったり、自宅に大勢の客をして悶着事の口をきいたりしていた。人に立てられるとか、人の美言などが好きだった方なのであろう。そして自己の善意が裏切られた恰好になると又その不きげんの度もひどかった。母にまで飛ばッちりを浴びせて呶鳴るといった風である。
性懲もなく、いちどなどは、波止場のマドロスの中から国籍も素姓も分らない弱々しい外国人を拾って来たりした。まだ若い異人なのだが何か病気をもっているらしいのである。マドロスといっても、およそ汚いマドロスだった。風呂に入れたり下着や父の古洋服を着せてやるのに、家じゅうに虱が散らかるといけないといって、母から女中まで悲鳴をあげたものである。父は、その若い異人をやがて会社にでも使うつもりでいたのか、医者にかけたり、日本語を習わせたり、その健康になるのを見て独り満足していた。