Japanische Klassiker mit Furigana
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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lesen Sie 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.787 Zeichen · 177 Bildschirme
三
学枚の門を出る時、米は白墨を拾った。帰る途々(みちみち)、彼は何処か楽書(らくがき)をするに都合の好さそうな処をと捜しながら歩いた。土蔵(どぞう)の墨壁は一番魅力を持っていた。けれども余り綺麗(きれい)な壁であると一寸(いっすん)ほどの線を引いて満足しておいた。
村端まで来て、道の片側に沿って流れている小川にかかった御陰石(みかげいし)の橋を見た時、米は此処が最も楽書するのに適していると思った。そして最初に滑(なめら)かそうな処を撰(えら)んで本という字を懸命に書いてみた。草履(ぞうり)は拭物(ふきもの)の代りをした。彼は短い白墨が磨(す)り減(へ)って来ると上目(うわめ)をつかって、暫く空を見ていてから
「カネサント、オカサントユウベ」
と書いた。彼はその次を書かなかった。なぜかというと昨夜眼を醒(さま)した時、真暗な自分の横で母と男とが低い声で話していたのはもしかしたなら夢であったのかもしれぬと思ったから。しかし、男の堅い手がそっと自分の手を強く圧(おさ)えて直ぐひっこめたのは確(たしか)に夢ではなかったと思った。そして、彼はそれ以外に何も記憶になかった。