Japanische Klassiker mit Furigana
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れもん
檸檬・ある心の風景 他二十編
Lesen Sie 檸檬・ある心の風景 他二十編 (れもん) von Kajii Motojirō (梶井 基次郎) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 127.934 Zeichen · 263 Bildschirme
そしてその人影の方へ歩きはじめました。その人影に私の口笛は何の効果もなかったのです。相変わらず、進んだり、退いたり、立ち留ったり、の動作を続けているのです。近寄ってゆく私の足音にも気がつかないようでした。ふと私はビクッとしました。あの人は影を踏んでいる。もし落し物なら影を背にしてこちらを向いて捜すはずだ。
天心をややに外れた月が私の歩いて行く砂の上にも一尺ほどの影を作っていました。私はきっとなにかだとは思いましたが、やはり人影の方へ歩いてゆきました。そして二三間手前で、思い切って、
「何か落し物をなさったのですか」
とかなり大きい声で呼びかけてみました。手の燐寸を示すようにして。
「落し物でしたら燐寸がありますよ」
次にはそう言うつもりだったのです。しかし落し物ではなさそうだと悟った以上、この言葉はその人影に話しかける私の手段に過ぎませんでした。
最初の言葉でその人は私の方を振り向きました。「のっぺらぽー」そんなことを不知不識の間に思っていましたので、それは私にとって非常に怖ろしい瞬間でした。
月光がその人の高い鼻を滑りました。私はその人の深い瞳を見ました。