Japanische Klassiker mit Furigana
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れもん
檸檬・ある心の風景 他二十編
Lesen Sie 檸檬・ある心の風景 他二十編 (れもん) von Kajii Motojirō (梶井 基次郎) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 127.934 Zeichen · 263 Bildschirme
四
しかし胎児には異状はなかったらしかった。そのあとで信子は夫に事のありようを話した。行一はまだ妻の知らなかったような怒り方をした。
「どんなに叱られてもいいわ」と言って信子は泣いた。
しかし安心は続かなかった。信子はしばらくして寝ついた。彼女の母が呼ばれた。医者は腎臓の故障だと診て帰った。
行一は不眠症になった。それが研究所での実験の一頓挫と同時に来た。まだ若く研究に劫の経ない行一は、その性質にも似ず、首尾不首尾の波に支配されるのだ。夜、寝つけない頭のなかで、信子がきっと取返しがつかなくなる思いに苦しんだ。それに屈服する。それが行一にはもう取返しのつかぬことに思えた。
「バッタバッタバッタ」鼓翼の風を感じる。「コケコッコウ」
遠くに競争者が現われる。こちらはいかにも疲れている。あちらの方がピッチが出ている。
「……」とうとう止してしまった。
「コケコッコウ」
一声――二声――三声――もう鳴かない。ゴールへ入ったんだ。行一はいつか競漕に結びつけてそれを聞くのに慣れてしまった。
四
「あの、電車の切符を置いてってくださいな」靴の紐を結び終わった夫に帽子を渡しながら、信子は弱よわしい声を出した。