Japanische Klassiker mit Furigana
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えいじつしょうひん
永日小品
Lesen Sie 永日小品 (えいじつしょうひん) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 50.000 Zeichen · 100 Bildschirme
過去の匂い
母は娘の手を引いて、再び独逸人の許に嫁いだ。その独逸人が昨夜の老人である。今では倫敦のウェスト・エンドで仕立屋の店を出して、毎日毎日そこへ通勤している。先妻の子も同じ店で働いているが、親子非常に仲が悪い。一つ家にいても、口を利いた事がない。息子は夜きっと遅く帰る。玄関で靴を脱いで足袋跣足になって、爺に知れないように廊下を通って、自分の部屋へ這入って寝てしまう。母はよほど前に失くなった。死ぬ時に自分の事をくれぐれも云いおいて死んだのだが、母の財産はみんな阿爺の手に渡って、一銭も自由にする事ができない。仕方がないから、こうして下宿をして小遣を拵えるのである。アグニスは――
主婦はそれより先を語らなかった。アグニスと云うのはここのうちに使われている十三四の女の子の名である。自分はその時今朝見た息子の顔と、アグニスとの間にどこか似たところがあるような気がした。あたかもアグニスは焼麺麭を抱えて厨から出て来た。
「アグニス、焼麺麭を食べるかい」
アグニスは黙って、一片の焼麺麭を受けてまた厨の方へ退いた。
一箇月の後自分はこの下宿を去った。
過去の匂い
自分がこの下宿を出る二週間ほど前に、K君は蘇格蘭から帰って来た。