Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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えいじつしょうひん

永日小品

夏目 漱石

Lesen Sie 永日小品 (えいじつしょうひん) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 50.000 Zeichen · 100 Bildschirme

Aozora Bunko

懸物

しまいには、全く聞えなくなった。あとは寂としている。自分はまた暗い中にたった一人立って考えた。どうしたら下宿へ帰れるかしらん。

懸物

大刀老人は亡妻の三回忌までにはきっと一基の石碑を立ててやろうと決心した。けれども倅の痩腕を便に、ようやく今日を過すよりほかには、一銭の貯蓄もできかねて、また春になった。あれの命日も三月八日だがなと、訴えるような顔をして、倅に云うと、はあ、そうでしたっけと答えたぎりである。大刀老人は、とうとう先祖伝来の大切な一幅を売払って、金の工面をしようときめた。倅に、どうだろうと相談すると、倅は恨めしいほど無雑作にそれがいいでしょうと賛成してくれた。倅は内務省の社寺局へ出て四十円の月給を貰っている。女房に二人の子供がある上に、大刀老人に孝養を尽くすのだから骨が折れる。老人がいなければ大切な懸物も、とうに融通の利くものに変形したはずである。

この懸物は方一尺ほどの絹地で、時代のために煤竹のような色をしている。暗い座敷へ懸けると、暗澹として何が画いてあるか分らない。老人はこれを王若水の画いた葵だと称している。そうして、月に一二度ぐらいずつ袋戸棚から出して、桐の箱の塵を払って、中のものを丁寧に取り出して、直に三尺の壁へ懸けては、眺めている。