Japanische Klassiker mit Furigana
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えいじつしょうひん
永日小品
Lesen Sie 永日小品 (えいじつしょうひん) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 50.000 Zeichen · 100 Bildschirme
昔
昔
ピトロクリの谷は秋の真下にある。十月の日が、眼に入る野と林を暖かい色に染めた中に、人は寝たり起きたりしている。十月の日は静かな谷の空気を空の半途で包んで、じかには地にも落ちて来ぬ。と云って、山向へ逃げても行かぬ。風のない村の上に、いつでも落ちついて、じっと動かずに靄んでいる。その間に野と林の色がしだいに変って来る。酸いものがいつの間にか甘くなるように、谷全体に時代がつく。ピトロクリの谷は、この時百年の昔し、二百年の昔にかえって、やすやすと寂びてしまう。人は世に熟れた顔を揃えて、山の背を渡る雲を見る。その雲は或時は白くなり、或時は灰色になる。折々は薄い底から山の地を透かせて見せる。いつ見ても古い雲の心地がする。
自分の家はこの雲とこの谷を眺めるに都合好く、小さな丘の上に立っている。南から一面に家の壁へ日があたる。幾年十月の日が射したものか、どこもかしこも鼠色に枯れている西の端に、一本の薔薇が這いかかって、冷たい壁と、暖かい日の間に挟まった花をいくつか着けた。大きな弁は卵色に豊かな波を打って、萼から翻えるように口を開けたまま、ひそりとところどころに静まり返っている。