Japanische Klassiker mit Furigana
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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
Lesen Sie 青べか物語 (あおべかものがたり) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 160.961 Zeichen · 317 Bildschirme
夕方のことで、漁師や船頭が四五人飲んでいたけれども、誰もその男に注意する者はなかった。見慣れないよそ者が来るのは常のことだし、自分たちに利害関係のない限り、そんな者に気をとられるような習慣はなかったからだ。――男は鳥打帽の庇をひきさげ、顔を隠すようにして飲んでいたが、やがて隣りにいた船頭の一人に話しかけた。去年この土地で心中事件があったそうだが、と訊いたのである。訊かれた船頭は首を振った。知らないのではなく、すっかり忘れてしまったらしい。すると男は躍起になった。
「松の家の女ですよ」と男は云った、「ごったくやの松の家の女で、名前は慥かお栄とか栄子とか聞きましたがね、ええ慥か薬の外交員と心中したとかって」
その話を漁師の一人が聞き咎めた。そしてその男の顔をひそかに覗いて見ると、びっくりして駐在所へ走っていった。去年とは巡査が変っていたけれども、心中事件は知っていたらしく、すぐにとんで来て男を捕えた。
「おまえは岸がんじゃあないか」と巡査が訊いた、「ここに証人がいる、嘘を云ってもだめだぞ、どうだ」
「へえ」と岸がんはうなだれた、「私はその岸がんでございます」