Classiques japonais avec furigana
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みみずのたわこと
みみずのたはこと
徳冨 健次郎
Lisez みみずのたはこと (みみずのたわこと) de 徳冨 健次郎 (とくとみけんじろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 265 437 caractères · 530 écrans
万年橋の袂に黙阿弥の芝居に出て来そうな夜啼饂飩が居る。夜は丑満頃で、薄寒くもあり、腹も減った。
「おい、饂飩を一つくれんか」
「へえ」
灯の蔭から六十近い爺が顔を出して一寸余を見たが、直ぐ団扇でばたばたやりはじめた。後の方には車が二台居る。車夫の一人は鼾をかいて居る。一人は蹴込に腰を据えて、膝かけを頭からかぶって黙って居る。
「へえ、出来ました」
割箸を添えて爺が手渡す丼を受取って、一口啜ると、腥いダシでむかッと来たが、それでも二杯食った。
「おい、もう二つこさえて呉れ」
余は代を払い、「ドウモ御馳走様! おい、旦那が下さるとよ」と車夫が他の一人を呼びさます声を聞きすてゝ万年橋を渡った。つい其処の歌舞伎座の書割にある様な紅味を帯びた十一日の月が電線にぶら下って居る。
築地外科病院の鉄扉は勿論しまって居た。父のと思わるゝ二階の一室に、ひいた窓帷越しに樺色の光がさして居る。余は耳を澄ました。人のうめき声がしたかと思うたが、其は僻耳であったかも知れぬ。父は熟睡して居るのであろう。其子の一人が今病室の光を眺めて、此深夜に窓の下を徘徊して居るとは夢にも知らぬであろう。