Classiques japonais avec furigana
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しゅくず
現代日本文学館8 徳田秋声
徳田 秋声
Lisez 現代日本文学館8 徳田秋声 (しゅくず) de 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 327 364 caractères · 638 écrans
いた。彼は逃げようとして絶えず隙を覗ってでもいるような、何かぴったりとしない葉子の気分に、淡い懊悩と腹立たしさを感じながら、それを追窮する勇気もなく、それかと言って器用に身を交すだけの術もなく、信じないながらにわざと信じているようなふうをして、苦悩の泥濘に足を取られていた。それというのも、そういう場合の彼女の媚態が、常よりも一層神経的でもあり煽情的でもあって、嫉妬と混ざり合った憎悪と愛着の念が、彼を一種の不健康な慾情に駆り立てたからで、お互いに肉情的な泥仕合いに爛れているのであった。
その夜も庸三は少し不機嫌になっていたが、どうかした拍子に、
「先生私をあまり重荷にお思いでしたら……。」
と葉子はふとそう言って、寂しそうな表情をしていた。
庸三は何か別のことを考えていたので、その言葉をはっきり聴き取ることもできず、その意味を問い返すだけの意識もなくて、押し黙っていたが、彼女の背後にあるものの影が、仄かにぼかされていた。
サルンに人のいない時、葉子は時々読んでいる本を伏せて庸三の傍を離れた。庸三は高すぎるくらいの卓子に向かって、廻転椅子にかけながらペンを執っているのだが、姿の見えぬ彼女の一挙一動を感知しようとするもののように、耳を澄ましていた。