Classiques japonais avec furigana
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さまようまちのさまよういえのさまようひとびと
さまよう町のさまよう家のさまよう人々
国枝 史郎
Lisez さまよう町のさまよう家のさまよう人々 (さまようまちのさまよういえのさまようひとびと) de 国枝 史郎 (くにえだしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 37 916 caractères · 75 écrans
六
私は併し思いました。(そうだ俺は一面に於て、先生と云われてよい人間だ、哲学者と云われてもよい人間だ、俺の職業はそういうものを、一切兼ねていなければならず、又兼ねてもいるのだからな。……お父さん? さあ、これだけは困まる。年齢から云っても精々のところ、俺は青年より十歳より以上、年上であろうとは思われないのだからな。……しかし然うだ、青年の煩悶を、旨く解決してやったら、慈父のような人間だと云われてもよかろう)
で、私は青年へ云ってやりました。
「君、兎に角話して見たまえ」
六
「私の名は細川繁と云います」
その青年はそう云いました。
「私には恋人があるのです」繁青年は云いつづけました。「それは日本のお嬢さんなのです」
「この上海にいるのですか?」
「そうです、上海にいるのです。……どんなに私がそのお嬢さんを――お嬢さんの名は初枝と云います。ええ然うです、柵初枝と。どんなに私はその初枝さんを、愛して愛して愛していることか! 云う必要も無い程です。……ところが私はそのお嬢さんを、どうしても殺さなければならないような……」
「おい待ちたまえ、何を云うのだ」
「いえ私はどうあろうとも、そのお嬢さんの命を取る! どうしても取らなければならないような、そんな境遇になっているのです」