Classiques japonais avec furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Lisez 玉藻の前 (たまものまえ) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 130 703 caractères · 261 écrans
かねてこうと大かたは想像して来た賓客たちも、予想を裏切らるるばかりの善美の饗応には、そのやわらかい胆をひしがれた。あるじは得意であった。客もむろん満足であった。
思い思いに寄りつどって色紙や短冊に筆を染める者もあった。管絃の楽を奏する者もあった。当日の賓客は男ばかりではこちたくて興が薄いというので、なにがしの女房たちや、なにがしの姫たちもみな華やかなよそおいを凝らして、その莚に列なっていた。その美しい衣の色や、袖の香や、楽の音や、それもこれも一つになって、あぶるように暖かい春のひかりの下に溶けて流れて、花も蝶も鶯も色をうしない声をひそめるばかりであった。
これもその美しい絵巻物のなかから抜け出して来た一人であろう。縹色の新しい直衣を着た若い公家が春風に酔いを醒ませているらしく、水にただよう花の影をみおろしながら汀の白い石の上に立っていると、うしろからそっと声をかけた者があった。男は振り向いて立烏帽子のひたいを押し直した。
「玉藻の前。きょうはいろいろの御款待、なにかと御苦労でござった」
若い公家は左少弁兼輔であった。色の白い、髯の薄い優雅の男振りで、詩文もつたなくない、歌も巧みであった。