Classiques japonais avec furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lisez 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 183 656 caractères · 363 écrans
私も無論に轢かれるものと覚悟した。馬車の馬丁もあわてて手綱をひき留めようとしたが、走りつづけて来た二頭の馬は急に止まることが出来ないで、私の上をズルズルと通り過ぎてしまった。馬車がようよう止まると、馬丁は馭者台から飛び降りて来た。外国婦人も降りて来た。私たちの車夫も駈け寄った。往来の人もあつまって来た。
誰の考えにも、私は轢かれたと思ったのであろう。しかも天佑というのか、好運というのか、私は無事に起き上がったので、人々はまたおどろいた。私は馬にも踏まれず、車輪にも触れず、身には微傷だも負わなかったのである。その仔細は、私のからだが縦に倒れたからで、もし横に倒れたならば、首か胸か足かを車輪に轢かれたに相違なかった。私が縦に倒れた上を馬車が真っ直ぐに通過したのみならず、馬の蹄も私を踏まずに飛び越えたので、何事も無しに済んだのである。奇蹟的という程ではないかも知れないが、私は我れながら不思議に感じた。他の人々も、「運が好かったなあ。」と口々に云った。
この当時のことを追想すると、私は今でもぞっとする。このごろの新聞紙上で交通事故の多いのを知るごとに、私は三十数年前の出来事を想いおこさずにはいられない。