Classici giapponesi con furigana
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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Leggi 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) di 国枝 史郎 (くにえだしろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 188.242 caratteri · 380 schermate
「一番悪い人間とは?」
月子は返事が出来なかった。
すると甚太郎がこんなことを云った。
「悪人なんていう者も、善人なんていう者も、この世に一人だってありゃあしないよ。悪い事をした時が悪人で、善い事をした時が善人さ」
「では悪事とはどんな事?」
「泥棒したいと思った時、泥棒しなけりゃあ悪事だよ。泥棒したいと思った時、泥棒すれば善事だよ」
大変簡単な解釈であった。
だが恐ろしい言葉であった。
そうしてひどく迷語的であった。
月子は何んとなくゾッとした。
考えなければいられなかった。
「そういう解釈もあるものかしら? ……妾の考えは反対だった。自分の心を抑えることが、善いことのように思っていた。……それだのにこの子はあんなことを云う」
だがまだこれはどうでもよかった。
彼女にとって恐かったのは、定まった悪人というものが、この世にないということであった。
四
裾野の春は酣であった。
ある日甚太郎は黐棹を担ぎ、春の裾野を歩いて行った。
一所に櫟の林があった。新芽を吹いたばかりであった。そこで鶫が啼いていた。
一所に小さい沼があった。そこでは鴨が泳いでいた。渡り損なった鴨であった。