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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

その二 京城の猫

照子の奴はどうしたろう。あのリン病はどうしたろう。そのうち梅毒になって、鼻がかけて、フガフガ言うようになるのだろうか。骨がらみにでもなってしまえと呪う一方、あの照子となら、ほんとに世帯を持ちたかったのだと俺は悲しくなるのだった。

――若紫が戻ってきた。そっと障子をあけて、はいってきた若紫は草履を小脇にかかえていた。おいらんは誰でもぺたぺたとフェルト草履を鳴らして廊下を渡って歩くのが常なのに、若紫は足音も忍ばせて戻って来た。

俺が鎌首をあげると、その敷蒲団を若紫は手早くひょいとめくって、その下に草履を隠そうとして、ピストルが眼にはいったらしく、

「あっ」

と叫んで身をすくめた。

「兄さんったら、こんなものを……」

「しーっ」

俺は自分の口に人差指を当てた。はげしい欲情が俺のうちに、かーっと燃え立った。

その二 京城の猫

――俺がもしもここで尾垣大将の暗殺を実行していたならば、とっくに俺はこの世をおさらばしていて、呑気にこんな昔の思い出話を語っていられるはずはない。つまりまたしても俺は死にぞこなったのである。

死にぞこなって、今日までこうしてのめのめと生きのびたのだが、あのとき、俺の肉体はたとえ死からまぬかれたとはいえ、ひょっとすると俺の心はあのときに死んだのかもしれないのだ。