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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

その六 思想落後

俺は前に、ボル派の組合のオルグを道に待ち伏せして、ひとりひとり殴ったと書いたが、そのひとりの大学生崩れと診療所の廊下でばったり顔をあわせたのである。

「よお」

と俺は与太者みたいに声をかけた。

「やあ」

と奴も言って、苦笑を浮べた。

(なんだ、このヒョウロクダマ! もう一度、殴ってやろうか)

と俺は奴を睨みつけてやった。

ところで俺が、ヨシコに棒を突っこまれて、ベッドにへたばっていると、なんと驚いたことに、奴がそこへはいって来て、俺の係りの若い医者に、

「よお」

と言った。

「やあ」

と医者は言った。二人は友だちだったのである。

その六 思想落後

その日以来、俺はもうセツルの診療所へは行かなかった。とっても、行けたもんじゃありゃしない。どの面さげて行けるというのだ。

俺のリン病も、せっかくの、この大事なドタン場に来て、一挙に逆戻りか。ながい間の忍耐我慢も、これで一遍にフイになるのか。かまうもんかい。いっそ、振り出しに戻って、もう一度、あのいやなウミが吹き出してくりゃいいんだ。盛大に噴き出したほうがいいくらいだ。そう思った。ざまあ見やがれと言うもんだ。俺は自分をそうして笑ってやりたいのだった。