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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

その四 保険的背心

「なんだ、これは」

「ピストルだ」

「ピストルは分ってる」

「これを持ってらっしゃい」

百成はやさしく言った。俺に貸そうというのだ。

ピストルなら俺はすでに持っている。言おうとすると、それも見抜いていて、

「ひとつは護身用。攻撃用にもうひとついる。今夜あたり、いるかもしれない」

百成は不気味な笑いを浮べて、

「いらなくなったら返して貰うから、それまで、まあ持ってるがいいな」

その四 保険的背心

綾子に会ったのは、俺が公寓を出て、車を表通りで拾おうと路地を歩いていたときだった。路地の向うから綾子はやってきたのだが、まるで俺の出てくるのを待っていたみたいだった。

挨拶もそこそこに綾子は言った。

「あたし、ピー屋をやりたいの」

「ピー屋?」

「兵隊さん相手の……。清さんには、これ、黙ってて下さいね」

ピーとはプロスティテュートの頭文字から来た淫売婦のことだが、この場合のピー屋は一般的な淫売屋の意味ではなく、兵隊相手のいわゆる慰安所のことである。

「思い切って前線に出て、やってみたいのよ。ね、お願い。軍に渡りをつけて下さらない?」

媚びるように綾子は言った。

「野中さんが――加柴さんが軍に顔がきくこと、知ってますわ。