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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
その三 悪時代
しばらくの仮の宿として、俺はその日本旅館にはいった。
仮の宿――この仮の字は日本語だと、一時のという意味だが、中国では、たとえば仮契約と書くとニセ契約、仮事務所はニセ事務所だ。仮票はニセ紙幣だ。
旅館の部屋を中国では房間という。一時の宿として俺が開房間(宿泊)したこの仮の房間が、間もなく俺にとって、文字通りニセの部屋になったのだから、面白いもんだ。いや、面白いと言えるかどうか。
日本人の経営だから日本旅館と言ったが、建物は洋館である。ホテルのように靴をはいたまま部屋まで行ける。部屋はたたみをしいた和室になっている。
三階建てだが、エレベーターはない。一階がホテルのロビーふうになっている。
照子がやっているというカフェーの場所を丸万から聞いた俺は、翌日そこへ行ってみようと、三階の部屋から階段を降りてロビーに出た。柱のかげに、すっと人がかくれた。誰か俺の出てくるのを、柱のかげでうかがっていたようだ。ピストルをひそませた内ポケットに俺は手をしのばせた。
柱を逆回りして人が出てきて、にこにこ顔で俺に近づいてきた。オカマのロクだ。
四・五・六のロクだの、オカマのロクだのと、どうもややこしいが、これは俺のせいじゃない。