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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

第一章

その一 魔窟の女

第一章

その一 魔窟の女

暗い踏切の手前で円タクをとめた。旦那、お楽しみですねと若い運転手がにやにやしながら、釣り銭を出した。なに、言ってやがると砂馬慷一はその小ぜにをひったくるようにした。道路の向うを汽車の線路が横断している。旧式の機関車がその道路の真中に立ちはだかって、老いぼれの喘息病みみたいに、ゼーゼーと白い息を吐いている。市外の、ここは場末のどん尻だ。

歩道のはじに屋台が並んでいる。縫い目に一列にとっついたシラミみたいだ。屋台はつぎはぎだらけの布でかこってある。この通りはからっ風が強いのか、ぼろ隠しのような布の下には重石がつけてある。石は囚人を縛るような麻縄でからげてある。豚の腹綿を焼いている煙が、もくもくと布の間から立ちのぼっている。

砂馬と俺は右手の路地にはいった。この辺が一等地だと砂馬は言う。上玉の女が揃っているというわけだ。道の左手は、安いけど女が落ちる。俺たちは、その日、金を持っていた。リャクでせしめた金である。

一等地の女は路地に出て、客の引っ張りをしたりはしない。この魔窟は女からひったくられやすいソフトをかぶって来るなとか、ポケットの万年筆を女に取られて泣く泣くあがったとかいうのは、同じシマでも場所がちがうのだ。