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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「勝手にしな」
俺はピストルを早いとこ北槻中尉に返そうと、旅館を出た。俺のあとをつけ回しているにちがいない憲兵に、そいつを取られたら、うるさいと思ったからだが、このまま、むざむざ中尉に返すのもなんとなく業腹だった。
強い光線が、がっと照りつける。俺は自分の頭にピストルの弾丸をぶちこんでやりたいような気もした。たかが一晩の女郎買いなんかで、そうやすやすと俺の気が静まるものではない。
電車で六本木へ行った。そこで乗り換えると次の停留所が連隊前である。
北槻中尉のいる連隊のすぐ前に停留所があるのだが、ほんの一丁場だから、六本木で電車を降りた俺はそのまま歩いて行った。
前に俺はピストルを早くよこせと、その連隊の将校寄宿舎に中尉を訪ねたことがある。独身の将校のためのその寄宿舎は、営門をはいって左手へ降りた窪地にあった。ひら家の陰気な建物だが、錦旗革命を夢みている青年将校たちがそこで虹のような気焔をあげていたものだ。
俺はその寄宿舎へ行こうと、衛兵に面会を申しこんだ。すると北槻中尉は練兵場だという返事だった。昼日中、将校が寄宿舎にいるわけはない。それを知らない俺でもないのに、暑さでぼうとなっていたのか。