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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

この猪沢市太郎に砂馬は俺がその娘の照子をどこかへ売り飛ばしたみたいに言ったのだろうか。砂馬に会おうと俺は言った。会えば、俺のせいじゃないことは分ると、猪沢と二人で砂馬の家へ行くと、俺の知らない先客がいて、猪沢は知っているらしく、

「やあ」

と挨拶したが、苦り切った顔だった。客のほうもむっつりしていて、二人はカタキ同士みたいである。

「ご苦労だったな」

十月事件のことを砂馬は俺に、ひやかすようにそう言って、

「今ちょうど、その話が出てたところだ」

すると客が四角い顎をあげて、俺たちに訓示でも垂れるみたいに、

「万事は尾垣大将のあの軍縮から来ているのだ。尾垣がいかんのだ」

おごそかに――そんな語調で言った。尾垣大将が陸相だったとき、いわゆる「大正軍縮」をやった。そのため軍人の間に不平不満が募ってきた。事実、軍縮のために多くの職業軍人はせいぜいで佐官どまりで退役になるという結果が生じて、出世の道がふさがれた。出世欲に燃える軍人は派閥を作って、保身と立身の法を講ずるようになった。三月事件も十月事件も、しょせんはその派閥の勢力争いから生じたものだというのが客の意見だった。