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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
俺のほうがかえって慌て気味で、よいしょと身体をずりあげた。そのとき、運転台のバック・ミラーにひょいと俺は、俺にそそがれた運転手のけわしい眼を見た。言いかえると、俺の視線と運転手のそれとが小さな鏡のなかで、ぱっとぶつかって、全くそれは火花を散らした感じだったが、そう感じたときは、運転手の眼はもうそらされていた。と見た次の瞬間、またもやその鏡のなかから、強い火花が俺の眼をめがけて――あたかも銃口が火を吹いたすごさだった。
ふたたび視線があったのではない。眼つぶしを食わされた俺が、やがて眼を開いて鏡を見ると、そこには運転手のおでこの平凡な横じわが映っていた。こいつはなぜ俺に、あんなケッタイな眼をそそいだのだろう。誰の眼にもただちにオカマと分る男と一緒の俺を、ケッタイな奴だと単にそう思ったからか。その運転手に聞えよがしに俺はオカマに言った。
「おめえなんか殺したって、しょうがねえんだがな。ま、ひと寝入りするか」
そうね、寝てらっしゃいとでも言うかと思ったら、
「駄目よ。もうすぐだから……」
とオカマは言って、俺の腿をゆすぶった。
ほんとは、それほどすぐでもなかった。