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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
それを言おうとすると、丸万が、
「川向うの女にラツて(惚れて)夢中だというじゃないか」
「そうなんだ」
と俺はコール天のズボンの膝をたたいて、
「その女を見せたいんだ。見てくんないか」
「チェッ。言わせておけば……ひでえヤチグレだ」
と丸万は俺を睨んだが、その眼には、
「いいとこ、あるぜ」
言葉にすれば、そういう光をたたえているのを俺は見た。俺は俺の眼に親愛と信頼をこめて、
「俺の女を、ぜひ見て貰いたいんだ」
と言った。俺たちの間では、淫売買いを何も恥ずべきこととはしていなかった。それを忌むべきデカダンみたいに見る、大学生崩れのボル派の若い連中の、へんに求道者ぶった、小生意気なまじめ面を俺たちはむしろ軽蔑していた。裏ではマルクスかぶれの女子大生なんぞをコソコソとくどいているくせに、表面は殉教者気どりでいるその偽善ぶりを俺たちは憎んでいた。
ヤチモロだろうとなんだろうと(ヤチモロとはど助平というより、ほんとは淫乱の意味だが)情熱を傾けての助平は、大杉栄の論文の題名を借りれば、「生の拡充」なのだ。たとえ相手がど淫売だろうとなんだろうと、情熱を傾けての淫売買いは自我の拡充だ。