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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

その夜、海が荒れて、船はひどい揺れ方だった。時化がちだとは丸万からも聞いたが、いやどうもすごい動揺だった。

上段の屑鉄屋がごそごそ降りて、部屋の隅の洗面器へ飛んで行ったと思うと、ゲーゲーやり出した。俺も釣られて、吐き気を催しそうになり、これはいかんと耳に指で栓をした。

出すものを出すと、屑鉄屋はごそごそと上段に昇って行った。だがすぐ、また降りてきて、ゲーゲーやった。

ベッドにもう戻らないで、屑鉄屋は洗面器にしがみついたままだった。出るものはすでになんにもないのに、激しい吐き気だけがつづいている。内臓を残らず吐き出してしまいそうな苦しみようだ。大げさとさえ思えるうめき声で、そうひどくなると、もうその声を聞いても吐き気を誘われなくなった。

上海へ行って、うまい汁を吸ってやるんだと意気軒昂たる男だっただけに、誰よりもひどく惨めに残酷に、船酔いに苦しめられているのは、いかにも皮肉で、俺は同情とちがうものをそこに感じていた。すると、俺の隣りのベッドから、

「あーあ」

うるさいなと言わんばかりの声だった(のちにそれは新聞社の特派員だと分った)。

苦しんでいる本人は気の毒だが、はた迷惑なのもたしかだ。