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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

この建物だけでなく、あたり一帯が、しーんと静まりかえっているのは、居住者が外の勤めに出ているせいなのか。住み手がなくて、空室が多いせいじゃないかと、俺はそんな気がした。

二階の部屋の扉をロクはノックした。なかから男の声で、

「誰――?」

「ロクです」

扉がうすめに開かれた。このとき初めて――そんな感じで、ロクが言った。

「加柴さんも一緒です」

このロクが俺をここへ案内するにつけて俺に言っていた言葉からすると、この場合は、俺を連れてきたと、そう言ったほうが適当なようだ。なかから何か声があったが、俺には聞き取れなかった。

その声の主を、

「あれは誰だ」

と俺はロクの耳に口を寄せて聞いてみた。

「ひょうたん池のあのアビル……」

とロクは言った。

アビルこと百成清一郎と俺はここで数年ぶりに再会したのである。

「しばらく……」

とアビルは言った。俺の来るのを知っていたかのような、それも今日来るのを待っていたかのような落ちつき方だ。しかしロクが前もって今日の来訪を彼に告げてあったとは思えない。

「あの節はどうも……」

と俺のほうがいささかあわて気味だった。

「奥さんは?」

ロクの問いを、アビルは、