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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
今夜の照子は和服でなく、黒いベルベットのドレスを着ていた。俺は眼をそらせて、
「矢萩さん。乱暴はよせ」
「よせ? 俺に命令するのか」
矢萩は眼を剥いて、
「お前さんにこういう照子を見せとく必要があるんだ」
よろよろと起きあがった照子に、またもや手をあげた。
今度の殴打はどうした加減か、照子を前のめりにのめらせた。照子は手を空に泳がせて、倒れる身体を支えようと矢萩のチョッキに手をかけた。
「なにしやがる」
払いのけようと、矢萩が身体ごと振ったとき、チョッキがビリッと破れ、ボタンがちぎれた。
「このあま!」
「矢萩さん。いい加減にしないか」
と俺は叫んで、間にはいった。その俺は、照子が――矢萩のビラ(妾)の照子が床に散ったベソ(ボタン)をすまなそうに拾い集めているのを見て、がっかりした。留め役の俺は、これじゃてんでクダマ(阿呆)みたいだ。
拾ったボタンを照子はテーブルの上に置くと、黙って部屋を出て行こうとした。惨めな姿を俺に、これ以上もう見せなくてもいいでしょう――しょんぼりした後ろ姿は、そう言っているかのようだったが、
「どこへ行く……」
と矢萩はどなった。照子はぎくりと足をとめ、ゆっくりと身体をかえした。